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クリントン大統領とルービン財務長官は、健全な経済政策を取っている周縁諸国が国際資本市場へのアクセスを回復できるよう、そのための基金を設立する必要があると語り、一五○○億ドルという数字を挙げた。
公言はしなかったものの、彼らはその資金源としてIMF特別引き出し権(SDR)(注3)の新規発行を念頭に置いていたはずだ。 彼らの提案は、一九九八年一○月のIMF年次総会ではあまり支持されなかったが、私は、それこそ必要な措置だと思う。
それが実現されれば、韓国、タイ、ブラジルのような国々が、信用保証を利用できるようになり、それは国際金融市場にただちに鎮静効果をもたらすだろう。 アメリカの案は、周縁に流動性を注入することによって、センターの利下げを不要にし、グローバル経済のバランスを改善することになる。
すでにみてきたように、タイと韓国では、IMFのプログラムは期待どおりの成果をあげられなかったが、それはプログラムに債務株式化計画が含まれていなかったためだ。 両国とも、対外収支は内需の激しい落ち込みという犠牲の上に立て直されてきたが、銀行や企業の収支は悪化の一途をたどっている。

現状で見るかぎり、両国はかなり長期にわたって不況に苦しむ運命にあるようだ。 債務株式化計画は、障害を一挙に片づけて国内経済が回復する余地をつくり出すが、海外の債権者には、損失を受け入れ、償却することを余儀なくさせる。
そうなると、彼らは信用を供与する意志も能力もなくしてしまうだろうから、海外に別の貸し手を見つけないかぎり、この計画の実行は不可能だ。 ここに、国際信用保証機構の出番がある。
国際信用保証機構が導入されれば、借り入れコストが大幅に削減され、関係各国は現在より高レベルの内需を支える資金を調達することができる。 これは、当事国にとつてはむろん、世界経済にとつても有益だ。
グローバル資本主義システムに所属していることに見返りが与えられるわけだから、マレーシアのような形での離脱を思いとどまらせる効果があるだろう。 ブラジルのケースは、もっと複雑だ。
アメリカ議会がIMFへの追加資金拠出を渋々ながらでも承認した暁には、IMFはブラジル救済パッケージをまとめることができる。 市場を安心させるため、このパッケージは相当大規模なものでなければならない。
公的機関から最低でも三○○億ドルの融資を行い、それを補完するものとして商業銀行が信用供与枠の維持を約束する、という案が取り沙汰されている。 いうまでもなく、ブラジルは、財政赤字の削減に向けて大胆な措置を取らなければならない。
それでも、このプログラムが失敗する危険は大いにある。 パッケージは、ブラジルの対外債務借り換えニーズには対応できるが、資本の逃避を再燃させることなく国内金利を大幅に引き下げることを保証するものではないからだ。
四○パーセントという現在の金利では、国内債務を借り換えると財政赤字が約六パーセント増大し、どのような緊縮財政をもってしても対応できなくなる。 事態がこのように複雑になるのは、信用保証機構がもともと国内債務の借り換えに利用されるものではないからだ。

それでも、海外からの借り入れに信用保証機構が利用できるとなれば、国内金利にも間接的な影響をおよぼすだろうし、それが成否を分けることになるかもしれない・・現在、ョーロッパの中央銀行は、インフレを誘発する恐れがあるとして、特別引き出し権(SDR)の発行に頑として反対している。 しかし、信用保証のために用意されたSDRは新たなマネーを生み出すわけではない。
発行されたとしても、デフォルト(債務不履行)によってできた穴を埋めるだけだ。 実をいうと、SDRの新規発行に対する反対の根拠は、空理空論にすぎない。
しかし、ドイツの選挙ののち、今ではョーロッパ全域で中道左派が政権を握っており、これらの政府はおそらく、信用保証機構にもっと柔軟な姿勢を示すだろう。 重要な輸出市場の回復がそれにかかっているとなれば、なおさらだ。
日本は、この機構がラテンアメリカだけでなくアジアも対象にするかぎり、支持するだろう。 こうして、IMFは信用保証発行の経験を積み、やがてはこの方法を制度化していくことができるだろう。
これは、いたるところでその必要性が叫ばれている「ニュー・アーキテクチャー」(新しい仕組み)の土台になりうるものだと私は確信している。 現在の仕組み(アーキテクチャー)の欠陥は、タイに端を発したグローバル金融危機のなかで、すこぶる明白になった。
欠陥のひとつは、国際レベルの適切な監督・規制機関がないことだ。 国際決済銀行(BIS)が国際業務を行う商業銀行を対象に自己資本比率の基準を定めはしたが、監督は各国の中央銀行に一任されていた。
中央銀行の仕事ぶりはけっしてお見事とはいえなかった。 一例を挙げると、韓国の中央銀行は期間一年以上の融資はすべて登録するよう義務づけた。
その結果、ほとんどの借り入れが一年未満のものとなり、中央銀行は債務の総額をまったく把握することができなかった。 韓国はOECD(経済協力開発機構)の加盟国であるため、BIS基準では、韓国と取り引きする海外の銀行は特別引当金を積む必要がなかった。
これが銀行の対韓国融資に拍車をかけた。 大半の融資が期間一年未満のものだったことが、発生した危機を一層手に負えないものにした。

インドネシアの場合、中央銀行の行動は、はるかにうさん臭いものだった。 たとえば、貸借対照表に、シンガポールからの援助の大半に相当する巨額の「民間部門への貸付」を示す項目があった。
この貸付はS一族に対するもので、すでに彼らの手で国外に持ち出されたのではないかという疑いが持たれていた。 危機が深まるなか、書類が保管されていたビルで不審火が発生した。
IMFには、加盟国の内政に対する発言権はほとんどない。 加盟国が支援を要請してくる危機の時を別にして、平時には、訪れて相談に乗ることはあっても、介入する権限も手段も持ち合わせてはいない。
IMFの使命は危機予防ではなく危機管理だが、今回、その仕事を見事にやってのけたとはいいがたい。 前章でIMFの処方の欠陥を検証したが、ここで国際信用の不健全な拡大にIMFが果たしてきた役割を見ておく必要がある。
それは、現在の仕組み(アーキテクチャー)のふたっ目の重大な欠陥、いわゆるモラル・ハザードにつながるものだ。 IMFのプログラムは貸し手を救済する働きをし、それによって、貸し手の無責任な行動を助長してきた。
これは、国際金融システムの安定を脅かす大きな要因だ。 すでに述べたとおり、IMFの貸し手に対する姿勢と借り手に対する姿勢には非対称性がある。
IMFは借り手には条件を課してきたが、貸し手にはなんの条件も負わせなかった。 IMFからの融資とそれに付帯する条件があったからこそ、債務国はかなりきちんと返済義務を果たしてきたが、それがなかったら、とてもそこまでは返済できていなかっただろう。

こうした間接的な形で、IMFは国際銀行その他の債権者を救済してきたのである。 この非対称性は、一九八○年代の国際債務危機の間に発達し、一九九四年、一九九五年のメキシコ危機でかなり露骨になった。

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